執筆:小林明人

焦らない選手育成法

こんにちは。いつも弊社メールマガジンをご覧いただき、誠にありがとうございます。

先日、あるお取引先様と弊社メルマガの話題になりました。その際に、「柔道ネタは子育てのヒントになるので、よく読ませていただいています。」とのお言葉をいただきました。その方は、ちょうど子育て中のお母様。

さて、ここのところ「ビズトナリ」の公開もあり、IT系の記事が続いておりましたので、久しぶりに柔道のお話をさせていただきます。

“なかなか結果が出ない”。そんな時期を、どう受け止めるかで、その後は大きく変わる。
今回は、私の所属チームにいる、ある男子中学生の成長を通して、あらためて実感した“継続の力”についてのお話です。

◇続かないだろうと思った子

4年前の秋、彼は私が所属する柔道チームに入会しました。当時は小学5年生、身長は高めだったもののかなり細身で、体力も十分ではありませんでした。そのため、準備体操の途中で気分が悪くなり、合間合間に抜けて休憩を取ることが欠かせませんでした。

柔道の準備体操は回転運動などを含む負荷の高い内容ですので、始めたばかりの子が同じような症状を訴えることも珍しくないのですが、彼の場合は、数か月経ってもそのような状態が続きましたので、体調を第一に見極め、無理をさせず、時間をかけて少しずつ慣れていけるよう指導することにしました。

◇小学生時代の彼

小学5年生の3月、ようやく“なんとか試合に出られるレベル”に達し、大会に出場。結果は残念ながら敗退でしたが、試合に出られたこと自体を、本人と親御さん、そして私たち指導者も大いに喜びました。

この“なんとか試合に出られるレベル”とは、試合で怪我をしないレベル、つまり“投げられても受身がきちんとできている状態”のことです。この時点までは、とにかく“怪我をしないための練習”を続けてきましたので、攻撃する技はまだごくわずかしか覚えていませんでした。

6年生になると、彼の目標は“一勝を挙げること”になりました。とはいえ、がむしゃらに稽古に励めるほどの体力はなく、“ようやくついてきている”という印象を拭えません。それでも彼の立派なところは、とにかく欠席しなかったことです。

そして、いくつかの大会に出場しましたが、結局“一勝”という目標には届きませんでした。

小学生最後の大会で、「勝利は中学生までお預けだね」と父子で語らう姿がとても印象的で、なんとかしてあげたいと思った次第です。

◇柔道部に入部

中学校に進学した2024年4月、彼は中学校の柔道部に入部。我がチームと掛け持ちで柔道を続けることになりました。

そして、その年の秋の新人大会で、念願の初勝利を挙げたと記憶しています。

この頃には稽古のメニューはすべてこなせるようになっていましたが、1つ上の学年の人数が多く、しかも実力者揃いだったため、団体戦メンバー入りは叶わず、結局、翌年の秋までそのチャンスは巡ってきませんでした。

私から見ていると、「自分は団体戦の5人には入れない」と思い込んでいるようにも見えました。

☆補足☆
<中学柔道部と我がチームの関係>
部活動の地域移行という話を耳にされたことがあると思います。これは現在、教員の負担軽減を目的として進められているものですが、私のチームでは、40年以上前から、それに近い形を取ってきました。地元の中学生柔道家たちは、学校で柔道部に所属しつつ、我がチームでも稽古を行い、中学校の公式大会(総体と新人大会)以外は、我がチームから出場する、という形です。

<個人戦と団体戦>
公式大会の個人戦には、基本的に希望者全員が出場できますが、団体戦は、そのチームの中でも特に実力のある選手が選ばれます。男子は5人制、女子は3人制です。したがって、団体メンバー入りを果たすということは、選手にとって非常に大きな目標となります。

◇強豪チームの一員

彼の所属する中学校の柔道部は県大会で上位に入る強豪チームでしたので、レギュラー外ではありましたが、彼がその一員であることに変わりはありません。

そのため、上位大会や強豪校が集まる練習会には随行することになり、先輩たちに引き連れられる形で、否応なく多くの経験を積むことになりました。

そして気づけば、体も大きくなり、細身ながらも、しっかりとした体格へと成長していきました。

◇君はもう弱い選手じゃない

中学2年生となり、1つ上の世代が引退した今年の秋。本人の自己評価はまだ低いままでしたが、私は「君はもう弱い選手じゃない」と声を掛けました。

それでもなかなか腑に落ちない様子で、どこかモジモジとしていましたが、秋の新人大会ではチームの中核として団体戦にも出場しました。遠目に試合を見ていると、「あれ、勝っちゃった」「あれ、また勝っちゃった」と、本人の戸惑いにも似た気持ちが伝わってくるようでした。

試合後に「ほら、君はもう弱い選手じゃないだろう」と再び話しても、まだ合点がいかない様子でしたので、この日以来、私はこの言葉を稽古のたびに伝え続けることにしました。

◇決勝戦に

先日行われた地元の大会で、一回戦を勝利し、周囲は「よかった、一勝できた」とほっとしていました。

ところが気づけば準決勝、そして、なんと決勝戦へ。これには、さすがにチーム関係者の誰もが目を疑いました。

そのときの、困惑と緊張の入り混じった彼の表情が、とても印象的でした。

そして決勝戦に敗れはしたものの、我がチームにとって間違いなく、この日一番の感動。チーム関係者全員が手を取り合って喜ぶ出来事となりました。

◇継続は“覚醒”に繋がる

決勝戦進出は、決してまぐれではありません。これまで続けてきた積み重ねが、形になった結果だと感じています。

日々の稽古の中で、本人が気づかないうちに身につけてきた力が、ある瞬間にふっと表に出ること。私たちはそれを“覚醒”と呼んでいます。

これまでにも、そんな瞬間を迎えた選手を何人も目の当たりにしてきました。続けていれば、いつか、その時が。

“覚醒”を迎えると、柔道だけでなく、勉強を含め、さまざまなことに自信を持つようになります。

柔道でなくても、そういった瞬間、皆様もご経験があるのではないでしょうか。

さて、彼がここまで成長できた背景には、何よりも、継続できる環境を親御さんが整え続けてこられたことがあります。結果が出ない時期も、焦らず、気を長く持って信じ続けたその姿勢には、ただただ頭が下がる思いです。そこに、親子の深い愛情を感じずにはいられませんでした。

こんな場面に立ち会えるからこそ、柔道指導者という役割は、やめられないのです。

◇本日のオススメ

子育てと従業員教育や事業育成には、共通する部分が多いと感じています。

特に、“成長できる環境を維持・提供すること”は、経営においても非常に重要であり、難しい部分でもあります。

そのような視点を大切に、私自身、会社経営に臨んでまいります。
人や組織そして事業も、ある日突然“覚醒”することがあります。
その瞬間を迎えられるかどうかは、続けられる環境を用意できるかどうか。
経営も、まさに同じだと感じています。

本年も一年ありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

~あとがき~

これからも、皆様のお役に立ちそうな気になることを掲載してまいりますので、どうぞお読みください。


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